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第1部 一章【財前姉妹】その5 第九話 テンマとユウ

作者: 彼方
last update 最終更新日: 2025-04-14 10:00:00

56.

第九話 テンマとユウ

 大会本戦会場は少し遠かったがスタート時間が午後1時からという遅めの開始になっていたので、これ幸いとその日は早起きして上野からまず池袋へ行った。はっきり言って遠回りなのだが池袋をウロウロする時間はある。池袋はオタク女子の聖地だ。東京まで出るついでにとユウはオタクグッズ専門店を見に行ったのだ。

 あらかじめ調べておいた駅から曲がる回数の少ないルートで迷わないように行こうと思っていたがどうやら出だしから地上にあがる出口を間違えたらしい。初っ端から時間をロスする。

(あれえ、絶対ここじゃないな。どうしよう、わかんなくなってきた。他人に聞くのもなんだか恥ずかしいし、お巡りさんにも頼りたくない。オタク女子かあ。って目で見られくない。私は隠れオタクだから)

────

 かなり道に迷ったがついに到着。ユウは店内に入ってすぐ店員さんに目的のグッズの売り場を聞くことにした。ここまで来たらもう聞くのは恥ずかしくない。

 欲しかったものを買ったらすぐに退散した、本当はもっと見たいけど小腹も空いていたし時間も迫っていたしで仕方ない。

 店員さんに駅までの最短距離を聞いて真っ直ぐに向かう。

(ちょっとだけなら時間あるかな)そう思って駅ビル内の喫茶店でコーヒーと軽食を済ませることにした。

(ふう、美味しかった。ごちそうさま)

 そろそろ時間ないな。と急いで出ようとしたその時、店内に知ってる顔を見つけた。

「天馬くん!?」

 そこにいたのは中学時代の同級生。泉天馬だった。

◆◇◆◇

 僕は泉天馬。僕と佐藤ユウは中学時代の同級生で当時はとても仲良くしていたし、1年

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    69.第八話 伝説の姉妹「はい、全卓終了しましたので新人は牌掃除をして他の選手は速やかに退場して下さい。お疲れ様でした!」 全ての卓が対局を終えたら新人は牌をおしぼりと乾いたタオルで磨いてキレイにしてから会場を出る決まりだ。仕事でいつもやっているカオリとマナミは素早いがミサトは初めての事なのでカオリに教えてもらいながらやるが、中々うまく牌が持ち上がらない。それもそのはず、全自動麻雀卓は牌の中に鉄板が入っていてそれを卓が磁石で持ち上げて積んでいく仕組みだが、プロリーグは対局前に牌チェックという作業を行い少しでも亀裂や落ちない汚れ、欠けてる角などを発見したら即交換するので牌の中にある鉄板の帯びた磁力がマチマチ。持ち上げようとしてもカチッと揃いにくいのだ。「これは、ミサトじゃムリかもね。私達でやるからミサトはその辺でメグミさんと待ってて」「わかった」 カオリは手先が器用なので扱いにくいリーグ戦の牌もチャチャッとキレイにして2卓分清掃した。「はやーい」とマナミも驚く。「じゃあ行きましょうか」と成田メグミが先導する。新人3人にゴハンを奢ってくれるらしい。 3人は初めてのリーグ戦を終えて自分はついにプロ雀士になったんだ。という実感をしていた。それは、カオリにはひとつの夢だった。(夢って叶うんだなあ)そう思っていたらさっき牌掃除をした時から現れていたwomanが《何を言ってるんですか》と思考に入り込んできた。《まだこれからですよ。でも、今日の対局。いい麻雀してましたね。私は嬉しいです。カオリはどんどん強くなる》(コーチがいいからね)《そうですよ、神様を味方につけた姉妹なんてきっとあなた達だけですよ。伝説の姉妹になりなさい。きっとその願いは叶いますから》「カオリちゃんさっきから無言だけどどうしたの?」「へっ? あ、ああ。なんでしたっけ」「だからー、和食と洋食どっちにするかの話でしょ」

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    68.第七話 試される時 財前姉妹が暫定1位2位という衝撃的なデビューを飾っている時、井川ミサトだけが絶不調だった。なんと、ミサトはラスラスラスと3連ラスを引いて身も心も打ちのめされていたのだ。 しかし、そんな時だからこそプレイヤーの真価が問われる。この今日の最終戦でどんな麻雀が打てるか。 3回ラスになろうとリーグ戦は始まったばかり、5節あるうちの1節目なので20回戦のうちのほんの3回に過ぎない。ここは気持ちを切り替えて行くのが正解だが、初めてのリーグ戦でラスしか取れない状態から復活できるか。不調を抜け出せるか。マイナスイメージを持たないで戦えるのか。まだ学生のミサトにそんな精神力があるのか。 いま、ミサトの器が試される。 ひとつだけ幸運だったことがあるとすればミサトの卓も5人打ちなので三回戦終了後に一旦抜け番だということ。この抜け番でどこまで気力を持ち直せるか。(くそぅ、大好きな麻雀が…… いま、こんなにつらい。分かってる。楽しいばかりじゃないって。いま、私は、試されている……!)(まさか、あのミサトが3ラス食らうなんてね)(ミサトならきっと持ち直すわよ) と、マナミとカオリは先に対局を終えて遠くから観戦していた。(がんばれ!)(がんばれミサト!) ミサトの卓の五回戦。まだミサトにチャンスは来ていなかった。苦戦が続くミサト。ミサト手牌 切り番一一四六八⑤⑧⑨455白白中  ドラ⑤ ミサトはここから⑧を切った。ピンズはドラを活用した面子をひとつ持てばいい。それより役牌の重なりで打点を作る手順だ。すると中が重なる。打⑨(中切らなくて良かったわね)(これでもだいぶ

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